曙塗り

曙塗り一あけぼのぬり一朱塗を下塗りにして、上塗りを黒漆、または透漆を塗って仕上げ、部分的に下の朱が透けて見えるまで研ぎぽかし、さらに磨き上げたものを暁紅とみたてて、"曙塗"として商品化したもの。後には、研ぎと磨きの手問をはぷいた塗り、立て(花塗り)の曙塗が生産され、一般化した。まず朱漆を部分的に塗り、その境目近くま黒漆または透漆を塗る。細い刷毛によってその境を塗りぽかし、さらに幅の広い刷毛を用いて刷毛びきをすると、朱色は薄い濃淡を表わし、曙光のような感じとなる。

漆一うるし一漆の木は、日本では南は 九州から、北は東北まで栽倍されている落葉の喬木で、この木から採取される樹液である。松や杉の木に傷をつけると、脂を分泌して傷口をおおうのに似て、漆の木もその傷口を保護するために樹液を分泌する。この外皮と材部の 間の漆液溝より惨出する乳白色の粘稠液が漆である。漆の木は七、八年から十年以上たつと、漆が採取できるようになる。特殊な鎌で幹に水平に傷をつけて、じみでてくる漆を採取するが、この漆掻集めのことを「漆掻き」という。六月中旬より採集を始め、十一月中句まで統けられる。「漆掻き」は、その時期によって品質を異にし、次のように区別される。
   六月中旬より七月中旬 初辺(若鎌)
   七月下句より八月下句 盛物
   九月上旬より九月下旬 未辺(遅鎌)
   十月中のもの     裏目(止漆)
   十一月中のもの    技掻(瀬メ漆)
こうして集められた漆には、木の皮だとかごみかはいっているが、いわゆる純粋の生の漆で、「荒味漆」といっている。漆樹より採取されたままの「荒味漆」にまじっている爽雑物、水分を除去し、光沢、透明度、乾燥度、肉持など、漆塗の目的に応じたものにすることを「精製漆」という。ナヤシー"練る"ことを表現する言葉て練つ合わせて均一の状態にする。クロメー水分を取り除く作業を"クロメル”という特殊な 言葉で表現している。「ナヤシ」と「クロメ」の二作業を行なった精製漆は、生漆、透漆、黒漆に大別される。

変り塗り

変リ塗り一かわりぬリ一江戸時代に刀の鞘の塗り方として発達したところから"鞘塗"とも呼ばれ、堅牢さと意匠の奇抜さを競い合った。そうしたなかで、工夫され、生まれた塗りの種類は、数百種にもおよぷといわれている。その主なものをあげると、漆に豆腐、卵白などを加え、ねばりを強くした「絞漆」によるもの-牡丹絞塗(ほたんしほぬり )下塗りの上に絞漆を塗リ、小円形に、牡丹様を表わすように中心に向かって捻り上げたものを基調とし、上に彩漆をかけて研ぎ出し、仕上げていく。柳絞塗(やなきしほぬり )針金に通した玉を絞漆を塗った面に転がすと、枝垂柳のような模様となる。。乾燥後、青漆を塗って乾かし、平らに研ぎつければ、青漆の面に柳の模様が浮かんでくる。そのほか、渦絞塗、叩き塗、時雨塗などがある。さらにこの絞漆に塗引き箆、櫛、針や錐の引っ掻きを利用したものには、青海波塗、縞目塗、木目に似せた 鉄刀木塗、黒檀塗、透漆で仕上げた紫檀塗などがあり、木目の模様を表わした塗りの種類は数多くある。植物の種や葉、粟、稗、もみ殻、棕呂の毛、刻みたばこなどの繊維を蒔き、模様の基本とするものに、津軽錦塗、七々子塗、もみ殻塗、磯草塗、 棕呂毛塗、金虫喰塗などがある。七々子塗の工程は、まず下塗りの上に彩漆を厚めに塗り、すぐに粟粒、菜種などを全面に蒔きつめ、乾いた後、これを拭き落とす。種がついた部分は凹型となり、周囲は漆を吸い上げ円形の文様が並ぷ。これに漆を塗って乾いたら平らに研ぎ上げる。下の丈様は上塗りした面に研ぎ出され、こまかな丸文をしきつめた文様となって浮かび上がってくる。また、貝、卵殼を利用したものには、青貝塗、卵殼塗などがある。透漆を利用したものには、透漆と金箔、銀箔、溜塗、曙塗、磨き出し根来塗、金唐草塗、白檀塗、若狭塗などがある。錆を利用したものには、青竹塗、煤竹塗、胡麻竹塗、松皮塗、桜皮塗、千段巻塗などがある。また綾文塗は、漆錆を平均した厚さに錆付けし、その上に澱粉を蒔き、織物をのせ紙を当てて、箆あるいはゴム・ローラで圧力を加える。織物をとると、織文が塗面に転写される。そのあと彩漆を塗り、研ぎ、金属粉を蒔いたりして織物の綾文様を漆器に再現していくものである。乾漆粉一漆をガラス板などに塗り重ね剥離した後、粉状にしたもの一や、炭粉を利用したものに、青銅塗、赤銅塗、右目塗、石地塗などがある。てつさぴ鉄錆塗というのは、炭粉と紅柄を混ぜて鉄錆に似せた粉を作る。次に下塗り研ぎした上に、黒漆に弁柄を少量混ぜた漆を塗って、鉄錆色の粉を全面に蒔く。十分ほどたつと下の漆を吸い上げて石目状の肌ができる。さらに蒔き込んで乾燥後、平らに研ぎ上げ、摺漆、磨き、摺漆と工程を重ねて仕上げる方法。また鉄錆粉を蒔いて後、引き箆で引っ掻き模様を描くやり方もある。藤、葛、竹、布、紙を利用したものに、網目塗、籠目塗、布目塗などがあり、その他虫喰塗、夜桜塗、吸上げ塗など数多くある。

素地

素地一きじ一漆塗の"もとい"となるものを「素地」という。漆器素地には、大別して次のようなものが用いられている。木材素地漆器のほとんとが木材の素地で、加工の点で次の 三つに大別され、それぞれ"木地師"という年期のはいった職人さんによって作られている。板物素地-板を貼り合わせて紺み立てる。挽物素地、ろくろ挽きによるもの。曲物素地-一枚の薄板を軟化し曲げる。竹材素地藍胎に漆を塗る場合には編目を つぶす方法と、編目を生かす方法、また他の材料と組み合わせる場合とがある。布-乾漆素地布を漆によって貼り合わせて素地としたもので、自由な形とすぐれた堅牢度がある。紙材素地紙を貼り合わせた、閑狼、和紙をこよりにして編んだ"こより素地"、また紙パルプを圧搾成形したものがある。陶材素地--素焼のやきものを素地としたもの。"陶胎漆器"と呼ばれる。皮材素地--牛や猪なとの皮を用い、木型によって成形したもの。"漆皮"と呼ばれる。金属材素地--金胎漆器。合成樹脂材素地-合成樹脂による素地もかなり古く、また新しい樹脂も次々と開発されている。とくに営業用食器類の素地には、ほとんどといってよいほど使われている。

後藤塗り

後藤塗り−ごとうぬり−後藤塗は、高松藩士後藤太平が下絵に付いた墨の模様にヒントを得て創案した渋みのある漆塗り技法です。 素地固めした器に中塗りをした表面を、朱漆を塗り、乾かないうちに、直接指先で、撫でたり叩いたりして模様を付けていきます。模様には、指ナデ・指タタキなどがあり、叩き方を変えます。その上に呂色漆を加えた渋みのある漆でぬりさらに良質の透明漆を薄く塗りこんで 仕上げたものです。

春慶塗り

春慶塗り(しゅんけいぬり)桧、縦などの素地に、黄色ないし紅色を着色し、漆を透かして木目が見えるように、透漆を上塗したもの。山楯子や雌黄を用いて黄色く着色した黄春慶。洋紅、スカーレットを用いた紅春慶。下地には生渋、膠、姫糊、豆汁などの種類がある。後亀山天皇のころ、堺の漆工、春慶の創始したものである。他に"飛騨春慶""能代春慶""吉野春慶""木曽春慶""日光春慶""伊勢春慶"がある。

摺り漆

摺漆一すりうるし一綿に生漆をつけて摺りこみ、のちに和紙をもってきれいに拭きとること。蒔絵では一号以下の金銀粉を蒔いたあとの粉固め、漆塗りでは呂色仕上げの工程のなかで、また木地に漆を吸いこませ、摺漆を重ねて仕上げる変り塗"拭漆仕上げ"の工程にも、さらに錆絵などにも、漆の仕事のなかではあらゆるところで行なわれる。

溜塗り

溜塗り(ためぬり)朱色の中塗りの上に透漆をかけたものを朱溜あるいは紅溜塗といい石黄漆に透漆を塗ったものを京溜といっている。透漆による半透明の美しさが特徴。

花塗り

花塗り一はなぬり一上塗りで漆を塗っただけで、研ぎ出さないで仕上げたもの。塗り立てともいう。

根来塗り

根来塗り一ねごろぬり一黒漆の中塗りの上に朱漆を施した木製漆器を一般に根来塗という。高野山の僧徒が紀州根来に移って根来寺を建 立した際に、寺で使用する日常食器類を僧たちが作ったのがその起リとされている。

白檀塗り

白檀塗り一びゃくだんぬり一金銀粉を全面に蒔き、乾燥後その上に透漆を上塗りしたもの。金銀粉の代りに金銀箔を置く場合もある。

目はじき塗

目はじき塗一めはじきぬり一 欅、栓、栗などのように導管のはっきりした材を素地に使い、軽く目止めを施し、木地固め、摺り漆をした後、刷毛で上塗りをする。導管の部分の漆がはじかれ、木目にそって小さな穴があく。

呂色塗り

呂色塗り一ろいろぬり一 上塗りの面を水研ぎし、更に植物性の油と砥粉で磨き、生漆を塗ります。乾燥後に油と磨粉を使い磨きます。 呂色は非常にツヤがあり、鏡面仕上げと呼ばれるものです。

生漆

生漆−きうるし−漆の木から採った樹液に混入しているゴミをろ過して除去したものが「生漆」で、水分を多く含み乾燥が早いために、下地、拭き漆(摺漆)、接着などに使われる。しかし生漆のままでは塗料に適さないために、精製工程を経て精製漆とする。

彩漆

彩漆−いろうるし−代表的な彩漆は朱(赤)、本朱(朱より黒っぽい)、洗朱(オレンジ色に近い赤)等ですが、全て顔料を混ぜて作ります。技術の発達により白、緑等の様々な色の漆があります。 彩漆にもツヤありとツヤ消しがあります。

透き漆

透き漆−すきうるし−半透明の精製漆。用途は木地呂塗り、溜塗り、春慶塗り等に使います。

本堅地

本堅地−ほんかたじ−地粉(じのこ)を生漆と混合した物を木地に塗ります。乾いたら、最初より細かい地粉を生漆と混合した物を塗ります。徐々に細かい地粉を塗り重ねて仕上がります。 丈夫な下地技法により商品に「本堅地」を表記する事もあります。

乾漆粉

乾漆粉−かんしつふん−漆をガラス板に薄く塗り、乾いたのち、はがして粉末にしたもの。蒔絵(まきえ)・漆塗りなどの材料に用いる。

陶胎

陶胎ーとうたい−陶器に漆で加飾したものを陶胎漆器といいます。 土を成形し素焼きした上に漆を数回塗り、焼成した物を母体として漆を塗り丁寧に仕げています。

乾漆

乾漆ーかんしつ−木,土などの型の上に麻布を漆で何重にもはり重ねて固める技法,およびその作品をいう。中国では古くから夾紵(きようちよ)といい,日本でこの技法が盛行した奈良時代には即,塞,(そく)などといった。紵は麻布の一種をいい,塞は布によってふさぐとの意であろう。乾漆は主に近代の用語で,初めは後述の乾漆像について主に用いられ,のち一般化して現在は工芸,考古学の分野でも用いられる。仏像制作にも用いられた。
[中国,朝鮮]  夾紵技法はおそらく中国で始まり,すでに漢代には山西省陽高県出土の前漢の夾紵棺,楽浪出土の後漢建武21年(45)の夾紵耳杯などさまざまな容器や飲食器の遺例がある。

器の部分の名称

器の部分の名称−まず口をつけるところを「口」もしくは「口縁(こうえん)」と言います。 外側は「胴」で底近くが「腰」、腰のすぐ下で底へ向かって曲がっているところが「高台脇(こうだいわき)」、底のでっぱりにくっついている部分が「高台際(こうだいぎわ)」です。 中のお茶が入る部分は「見込み」、底のお茶が溜まるところは「茶溜まり」です。 茶碗の下の部分には丸い底がついている場合が多いのですが、これは「高台」と言います。 ひっくり返して底部分の輪の中を「高台内(こうだいうち)」、高台の接地部分を「畳付き」と言います。

読売新聞社「日本の漆器」より一部抜粋
●1979年4月25日